あれから一カ月
あの日から、一カ月が経った。
長かったようで、あっという間だったような気もする。
毎日が慌ただしく過ぎていく中で、ようやく少しずつ“これからの形”が見え始めてきた。
ありがたいことに、事業を引き継ぎたいという数社から手が上がり、ほぼ譲渡先が決まりつつある。
倒産発表の日のあの混乱を思い出すと、ここまでこぎつけたこと自体が奇跡のように思える。
それでも、会社の中は静かに変わり続けている。
営業部のメンバーは、取引先に引っ張られて転職する者もいれば、別の道を選んで辞めていく者もいる。気づけば、となりの席も、向かいの席も、空いてしまった。
あの騒がしい営業部の雰囲気は、もうどこにもない。
ありがたいことに、私にもいくつかの取引先から声をかけてもらった。
「うちに来ないか」と言ってもらえるのは本当に嬉しい。この状況でそう言ってもらえること自体、これまでやってきた仕事が少しは評価されていたのだと、素直にそう思えた。
でも――不思議と、心は動かなかった。
これまでと同じ業界で、同じような営業を続けるよりも、まったく別の世界で挑戦してみたいという気持ちが湧いてきた。
倒産という出来事が、自分の価値観を変えてしまったのかもしれない。そこで、思い切って転職サイトに登録してみた。
まさか自分が“転職活動”という言葉に向き合う日が来るとは思ってもみなかったけれど、
やってみると、少しワクワクする。
「自分には何ができるんだろう」
「次はどんな場所で、どんな人たちと働くんだろう」
そんなことを考えるだけで、ほんの少しだけ未来が明るく見えてくる。
まだ何も決まっていないけれど、この“一カ月後の自分”は、確かに前を向き始めている。
あの日の絶望の真ん中にいた自分に、
「大丈夫、ちゃんと次のページがあるよ」と
教えてあげたい気分だ。
