【倒産体験記】⑥倒産当日帰宅後

倒産体験記

夜の帰宅後に思うこと

玄関を開けると、リビングの明かりが漏れていた。妻がテレビを見ながら、待っていてくれた。

「おかえり。今日はどうだった?」

いつも通りの声。

だけど、その“いつも通り”が妙にありがたかった。

「とりあえず、今日は説明があって」

とだけ答えると、妻はそれ以上聞かなかった。

察してくれているのだろう。

代わりに、「お風呂入る? それとも先にごはん?」と穏やかに聞いてくれた。

その何気ない一言が、妙に沁みた。

風呂の湯船につかると、今日の出来事がゆっくりと頭をよぎる。

副社長の土下座、社員の沈黙、鳴り止まない電話。

どれも現実なのに、どこか映画のワンシーンのように感じた。

「明日から、どうなるんだろうな」

湯気の向こうに問いかけても、答えは返ってこない。でも、不思議と絶望感はなかった。

不安もあるけれど、どこかに小さな希望のようなものも感じていた。

夕食のあと、寝室に入ると、息子がすやすやと眠っていた。寝顔を見ていると、「守らなきゃな」と自然に思った。

それだけで、少しだけ前を向けた気がする。

「とりあえず、明日も行くか」

そう小さくつぶやいて、電気を消した。

真っ暗な天井を見上げながら、心のどこかで「なんとかなるさ」と自分に言い聞かせていた。

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