【倒産体験記】④倒産当日の朝

倒産体験記

朝がきてしまった

ろくに眠れない夜だった。

起こりうる展開を何度も頭の中でシミュレーションしては、不安になったり、

「まあ、なんとかなるだろ」と無理に楽観してみたり。

ネガティブとポジティブの間を、ずっと行ったり来たりしていた。

結局ほとんど眠れないまま、朝がきてしまった。

気持ちはまったく落ち着かない。

それでも、いつもより少し早めに家を出た。

出社すると

会社に着くと、すでに多くの社員が出社していた。

営業部以外の部署の人たちも、どうやら今日「民事再生を申請する」ことを知っている様子だった。

社内の空気は、重たく、静かで、どこか張りつめていた。

始業時間になると、「全社員は大会議室に集まるように」との指示。

重たい足取りで部屋に入ると、前方には副社長がひとり立っていた。

社長や他の役員の姿はない。おそらく支店や工場で同じ説明をしているのだろう。

この副社長——社長の弟で、営業部門の責任者。つまり私の直属のトップだ。

正直なところ、同族企業によくいる“口だけ達者なボンボン”という印象だった。

民事再生の発表

社員が全員そろうと、副社長は開口一番、

「本日、当社は民事再生手続を申請します」と告げた。

“倒産”という言葉は一度も使われなかった。

だからなのか、状況を正しく理解できていない社員もいたようだった。

説明は淡々と続く。

事業を継続するため、すでに数社が協力の意向を示していること。

会社そのものは存続できる見込みであること。

ただし、ボーナスは支給できないが、給与は保証するということ。

そこまではまだよかった。

だが最後のほうで、副社長は急に語気を強めた。

「社長の放漫経営が原因です。私も、これほどひどい経営状況だとは最近まで知りませんでした。本当に申し訳ありませんでした。」

そう言って、壇上で土下座をした。

そして、静寂

誰も声を出さなかった。

怒りも嘆きも、あきらめも、すべてが混ざり合ったような空気。

まるで「茶番劇を見せられた観客」のように、社員たちは無言で部屋をあとにした。

廊下に出ても、誰も口を開かない。

足音だけが、やけに響いていた。

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