朝がきてしまった
ろくに眠れない夜だった。
起こりうる展開を何度も頭の中でシミュレーションしては、不安になったり、
「まあ、なんとかなるだろ」と無理に楽観してみたり。
ネガティブとポジティブの間を、ずっと行ったり来たりしていた。
結局ほとんど眠れないまま、朝がきてしまった。
気持ちはまったく落ち着かない。
それでも、いつもより少し早めに家を出た。
出社すると
会社に着くと、すでに多くの社員が出社していた。
営業部以外の部署の人たちも、どうやら今日「民事再生を申請する」ことを知っている様子だった。
社内の空気は、重たく、静かで、どこか張りつめていた。
始業時間になると、「全社員は大会議室に集まるように」との指示。
重たい足取りで部屋に入ると、前方には副社長がひとり立っていた。
社長や他の役員の姿はない。おそらく支店や工場で同じ説明をしているのだろう。
この副社長——社長の弟で、営業部門の責任者。つまり私の直属のトップだ。
正直なところ、同族企業によくいる“口だけ達者なボンボン”という印象だった。
民事再生の発表
社員が全員そろうと、副社長は開口一番、
「本日、当社は民事再生手続を申請します」と告げた。
“倒産”という言葉は一度も使われなかった。
だからなのか、状況を正しく理解できていない社員もいたようだった。
説明は淡々と続く。
事業を継続するため、すでに数社が協力の意向を示していること。
会社そのものは存続できる見込みであること。
ただし、ボーナスは支給できないが、給与は保証するということ。
そこまではまだよかった。
だが最後のほうで、副社長は急に語気を強めた。
「社長の放漫経営が原因です。私も、これほどひどい経営状況だとは最近まで知りませんでした。本当に申し訳ありませんでした。」
そう言って、壇上で土下座をした。
そして、静寂
誰も声を出さなかった。
怒りも嘆きも、あきらめも、すべてが混ざり合ったような空気。
まるで「茶番劇を見せられた観客」のように、社員たちは無言で部屋をあとにした。
廊下に出ても、誰も口を開かない。
足音だけが、やけに響いていた。
