夜の帰宅後に思うこと
玄関を開けると、リビングの明かりが漏れていた。妻がテレビを見ながら、待っていてくれた。
「おかえり。今日はどうだった?」
いつも通りの声。
だけど、その“いつも通り”が妙にありがたかった。
「とりあえず、今日は説明があって」
とだけ答えると、妻はそれ以上聞かなかった。
察してくれているのだろう。
代わりに、「お風呂入る? それとも先にごはん?」と穏やかに聞いてくれた。
その何気ない一言が、妙に沁みた。
風呂の湯船につかると、今日の出来事がゆっくりと頭をよぎる。
副社長の土下座、社員の沈黙、鳴り止まない電話。
どれも現実なのに、どこか映画のワンシーンのように感じた。
「明日から、どうなるんだろうな」
湯気の向こうに問いかけても、答えは返ってこない。でも、不思議と絶望感はなかった。
不安もあるけれど、どこかに小さな希望のようなものも感じていた。
夕食のあと、寝室に入ると、息子がすやすやと眠っていた。寝顔を見ていると、「守らなきゃな」と自然に思った。
それだけで、少しだけ前を向けた気がする。
「とりあえず、明日も行くか」
そう小さくつぶやいて、電気を消した。
真っ暗な天井を見上げながら、心のどこかで「なんとかなるさ」と自分に言い聞かせていた。
