【倒産体験記】⑤倒産当日の午後

倒産体験記

午後の会社

朝の発表を終え、しばらく通常通り業務をこなし昼休憩に入った。

それでも誰も食欲がわかない。

社員食堂のテーブルには、いつもの笑い声も会話もなく、ただカチャカチャと箸の音だけが響いていた。

午後になると、まさに“現実”が押し寄せてきた。

鳴りやまない電話

会社の代表電話はもちろん、各部署の電話も一斉に鳴りはじめた。

取引先、仕入れ先、銀行——。

どこも同じように「本当なんですか?」という問い合わせから始まり、

「いつまで支払いができるのか」「納品分はどうなるのか」と矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

営業部では対応マニュアルを片手に担当ごとに電話対応を分担した。

でも、正直、誰も“何が正しい対応なのか”分かっていなかった。

午後3時を過ぎた頃には、電話のコール音が社内BGMのように鳴り響き、会話とため息が交互に重なっていた。

この時間になると、取引先も会社を訪れ私も対応に追われた。

「破産ではありません」の一点張り

部長からは、「破産ではありません。民事再生です」と繰り返すように指示が出ていた。

「民事再生? それ、倒産と同じですよね?」

「うちも取引停止の方向で検討します」

中には同情してくれる人もいたが、多くは冷たい反応で、怒りをぶつけてくる人もいた。

「破産ではありません」

わけもわからず、この一言で逃げるしかなかった。

時間だけが過ぎていく

午後5時を過ぎても、電話は鳴り続けた。

社内の空気は重く、時間が止まったようだった。少し早いが留守番電話をセットした。

先日寿退社した女子社員の留守番電話の再生音声が繰り返される。

『本日の業務は終了しました…..』

12月初旬、外はみぞれ混じりの雪が降ってきた。

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