【倒産体験記】③妻への報告

倒産体験記

逃げ出したい

退社後、電車に揺られながら、何とも言えないやるせなさに包まれていた。

何も考えたくない。逃げ出したい。

それでも——まずは妻に、事実を伝えなければならない。

どんな反応をされるのか、まったく想像がつかなかった。

帰宅したのは夜も遅く、幼稚園に通うひとり息子はめずらしくまだ起きていた。

妻は「寝かしつけてから食事の準備するね」と言って寝室に入っていった。

私は風呂に入り、リビングで妻が出てくるのを待った。

しばらくして妻が戻り、いつものように食事を用意してくれた。

席に着くと、向かい合って座り、妻は今日一日の出来事を楽しそうに話し始めた。

私はうなずきながら、打ち明けるタイミングを探していた。

ひと通り話し終えたのを見計らい、私は口を開いた。

妻へ伝える

「冷静に聞いてほしいんだけど……」

妻は「なになに? 怖い怖い」と言いながら、頭の中でいろいろ想像を巡らせたのだろう。

「女?」と、冗談めかして一番遠い答えを探るように言ってきた。

「……明日、会社が倒産するらしい」

妻にとっては、最悪の答えではなかったのかもしれない。

拍子抜けするほど、あっけなく返ってきた言葉は——

「逆によかったんじゃない?」

そのひとことで、救われた気がした。

妻は続けて、

「帰りも遅いし、休みの日も仕事ばっかりだし、昇給も少ないし……前から大変そうだったじゃない」

「これを機に転職活動すれば? がんばって」

と、前向きに励ましてくれた。

第一関門は、なんとか突破。

明日はどうなるのか、不安を抱えたまま、私はベッドに入った。

タイトルとURLをコピーしました